ああ、ハワイ!

ハワイ島のヒロに引っ越してきてからのアレやコレや

超文学『吾輩はゲッコーである』(2)

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どうやらこの女史には自分の周りのものに名前を付けるクセがあるようで、コンピュータにも車にも、もちろん向いに住む猫にも女史が作る人形にも名前を付けている。それ以外にも女史が密かに名前をつけて語りかける対象がいるらしいのだが、これなどは3次元世界に存在しないシロモノなのである。ベッドの争奪戦に始まって、今後の吾輩の暮らしには暗雲垂れ込めまくりである。

数日前、女史が家に友人女史らを招いて会食をしていた際である、女史は吾輩のことを話題にした。
「毎晩ベットの中にゲッコーがいるのよ」
「え?! それで?」
「フトンまくると飛出していくんだけどね」
「フトン温めてくれてるんじゃないの」
「でも連中ってさ、冷血じゃない?」
「じゃあ、フトン冷やしておいてくれてるんだ」
「そうか、ここは暑いしね。あはははは」
「あはははは」
「夜中に顔舐めてくれたりして」
「えへへへ、あはあは」
「ゲヘゲヘ」
舐めるものか! なんとういう下品な笑いだ。その時である、吾輩は女史の頭の中で考えていることがツーカーで分かり、なんと吾輩のことを密かに「イチ公」と呼んでいる声が聞こえたのである。

イイイイイイイ…イチ公って、忠犬ハチ公の真似か? 吾輩には真一文字緑衛門という先祖代々から受け継いだ名前があるのだ。怒り心頭で二本足で立ってしまった。
この女史は昔広告代理店で働いていたとか人に言っていたが、なんという乏しいネーミング能力だ。そういえば昔クロ猫を飼っていた時にその猫をクロと呼んでいたらしい。しかもイチ公すら面倒なのか、吾輩をイチ、イチと呼んだりしている。
その上、今朝などはコーヒーを入れながら『ゲッコー仮面』『フィガロのゲッコー』『あるゲッコーの風景』「ゲッコーけだらけ猫灰だらけ」などと独り言を言っている始末…。まったくもって、何と言うか、広告代理店向きではないな。

全然望んでいたいた訳ではないのに、女史の頭で起きていることが聞こえるようになって吾輩は混乱している。脳みそは大きさではないと思うが、吾輩の脳みそは大きくはないのである。その小さなスペースが女史の考えや声に包まれると哀しいかな吾輩は己を失ってしまう。

昨晩もそうだった。女史は睡眠ショーガイがあるようで吾輩の活動時間である深夜に起きていること多い。これもモンダイなのであるが、昨晩もフッと起き出し、ベットに腰掛けてボー然と壁を眺めていた。その刹那、吾輩の脳みそに以下のイメージが浮かんだのである。
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誰じゃ、この少女は? 女史とは似ても似つかぬではないか…と思っているうちに吾輩はこのイメージの少女になり、かつて感じたことのない不可思議な体験をした。胸が苦しく、全身が冷たくなって、ああ、なんもかんもどうでも良いや、という感覚に囚われたのである。何じゃコレは? 
女史よ、あんたが何でこんな少女をイメージしたかは知らないが、止めた方がよいぞなもし、であるよ。吾輩は快食快眠快便、すこぶる機嫌良く生きているヤモリ様なのである。吾輩のような冷血動物(正確には変温動物であるぞ)の体温をイメージを使って下げてしまうなどいう面倒なことをされては、まったくもって暗雲垂れまくりである。
ではあるが、我が家から見える朝日は超ゴージャスなのであるよ。

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