ああ、ハワイ!

ハワイ島のヒロに引っ越してきてからのアレやコレや

超文学『吾輩はゲッコーである』(1)

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吾輩はゲッコーである。名前はすでにある。真一文字緑衛門。真一文字の名字は、吾が種族の紋である背中に通る一筋の白い線から来ている。キリリとした白い印を背負った吾が種は、静かな夜が活動時間。背中に派手なオレンジ色のスポットを散らし、昼にチョロチョロと動き回る昼ゲッコーたちとは大違い、蒸し暑い昼に動き回るほど愚かしくはないのである。
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住処はとある女史の家、というか吾輩の方が先住である。この女史は数ヶ月前からこの家に一人住み着いて、何やら毎朝どこかへ出かけ、草臥れて昼頃帰ってくる。どうやら自動車という自分の足を使わずに動き回ることの出来る大きなハコを動かすことに草臥れている様子だが、あのハコを手に入れる前は背中に何かを背負ってトコトコと家を出て歩き回っていたものだ。この女史については追々語るとして、最近の事件を語ろう。

この女史がベッドルームと呼んでいる部屋が吾輩の住処なのであるが、最近になってこの部屋が様変わりした。
女史がベッドと呼ぶ気持ちのよい台に掛かっていた布が吾輩の好みの緑色に変わり、活動拠点である窓にも植物の葉が舞い散る布が掛けられるようになったのである。吾輩はうれしくなって、緑の布の間で昼の安眠を貪っておった。ところが毎夜、吾輩のこの心地よい塒(ねぐら)にこの女史が闖入してくるのである。女史はいつもどこか別の部屋で寝入ってしまい、深夜前に慌てて「ベッド…ベッド…ちゃんと寝なくちゃ…」などと言いながら、フワフワとした上掛けをガバっと広げてベットに入ってくるのである。そして、吾輩を見つけて一声「何じゃコレ?」。「何じゃコレ?」はこちら叫びたい言葉ではあるが、逃げるが勝ち。なにせ女史は巨大なのである。

吾輩は敏捷なるジャンプをしてフワフワした上掛けの上に移動。ジッとしていると女史が顔をグッと近づけて、ジッーと吾輩を見つめる。正直、これは怖い。なんで吾輩を見つめるのだ、吾輩は見つめられのは苦手なのだ、あっち行け! 早く寝てしまえ! ところがすっかり目が醒めた女史はずっと吾輩を見つめている。
ひょっとすると吾輩の美しい移動のパフォーマンスを待ちわびているのではないか、と合点した吾輩は四肢を素早く前後に動かす得意の匍匐(ほふく)移動の妙技を披露してやった。まあ、吾輩は匍匐(ほふく)移動しかしないではあるが…。
さらに、女史らが重力などを呼ぶものを無視して壁をスルスルと登り、最後は窓に掛けられた布に飛び移ってやった。我ながら惚れ惚れとする美しいジャンプである。しかも、この布には植物の葉が一杯に広がっていてココチヨーイのだ。
吾輩は一枚の大きな葉を選んでその葉の上で今夜を過ごすことにした。すると背後に女史の強い視線が張り付いてくる。まだ見ているのだ。しかも、あろうことか「あれーこいつ、カーテンの柄を本物と思ってんのかな?」と吾輩をせせら笑っているのだ。ムムム、ムムム、
屈辱という言葉はこういう時に使うものである。そもそも吾輩はこの家の守り神、ヤモリ様であるぞ。お前なんぞは、大家とかいう輩に金なるものを払ってようやく住まわせてもらっているだけではないか、プンプン…

アッ…布越しに大好物の虫の影が……、おおおお、ムシムシ、メシメシ…

それにしてもこの家から見える夕焼けは美しいのであるぞ。f:id:doiyumifilm:20131104021453j:plain